「AIスカウト」で検索すると、月数万円のツールと月数十万円の運用代行など多様なサービスが出てくるかと思います。両者は似たAI機能を掲げていますが、ツールはAIの機能を、運用代行はAIに加えて運用そのものをサービスとして提供しています。
この記事では、スカウト業務を6工程に分けて両者を比べ、自社がどちらを選ぶべきかを3つの質問と費用の計算式で確かめます。
💡この記事の要点(TL;DR)
- 違いはAI機能ではなく、スカウト業務のどこまでを自社で担うかです。ツールは実行を支援し、AI RPOは運用ごと引き受けます
- 比較にはスカウト業務を6工程(要件設計・立ち上げ・実行・判断・改善・報告)に分けた整理を使います。業界共通の分類ではなく、本記事で設けたものです
- どちらを選ぶかは、早く内製化したいか、短期の採用目標と今の人手にどれだけ差があるか、担当者にスカウトのノウハウがあるかの3つで決まります。人手が大きく足りないなら、まずAI RPOで採用を進めます
- ツール型は自由度と運用ノウハウの蓄積に強い一方、要件設計・立ち上げ・改善などを自社で担うケースがあります
- AI RPO型は運用ごと任せられますが、委託先の力量に左右され、設計しなければノウハウが委託先の中だけに残る可能性があります
- 費用は「サービス料金+自社に残る工数」で、両方の型を同じ条件に揃えて比べる必要があります
- 「運用代行で型を作り、ツールに移行する」という中間案もあります
AI RPOとAIスカウトツールは何が違うのか?
AIスカウトツールと、AI RPO似て非なるものですが、具体的に何が違うのでしょうか。本記事では、両者は、スカウト業務のどこまでを自社で担うかに差分があると考えています。
AIスカウトツールは、候補者抽出・経歴判定・文面生成など、スカウト業務の実行をAIで支援するものです。一方、本記事で比較するAI RPOは、AIによる実行に加えて、要件設計や立ち上げ、改善、報告などの運用工程まで外部へ委託する形を指します。
AIスカウト自体の仕組みやサービスの型については、以下の記事で詳しく整理しています。
📄 関連記事: AIスカウトとは?
AI RPOそのものの考え方については、以下をご覧ください。
📄 関連記事: AI RPO(AI採用代行)とは?
この記事では両者の一般的な説明ではなく、工程別に誰が担当していくのか、という観点で比較をしたいと思います。
AIスカウトツール | AI RPO | |
サービス内容 | AI機能 | AI+運用 |
主な担い手 | 自社+AI | 委託先+AI |
自社工数 | 多く残りやすい | 減らしやすい |
自由度 | 高い | 委託範囲による |
運用ノウハウ | 自社に残りやすい | 設計しないと外部に残りやすい |
比較対象業務領域は、求人要件の設計からスカウト送信後のレポーティングまでです。
返信後の日程調整や面談、選考管理はサービスや契約による差が大きいため、この記事では比較対象外とします。
スカウト業務を6工程に分けて比べる
スカウト業務を6つの工程に分解し、ツールとRPOでどう変わるのかを表形式で一覧にしてみました。
工程 | 内容 | ツール型(一般的な構成) | AI RPO型(一般的な構成) |
1. 要件設計 | 求人要件の翻訳、ペルソナ設計、検索条件の設計 | 自社 | 委託先(自社が承認) |
2. 立ち上げ | 求人票のリライト、テンプレート登録、ターゲットリスト作成、合否目線の合わせ込み | 自社 | 委託先(自社が承認) |
3. 実行 | 候補者の抽出、経歴判定、文面生成、送信・再送の管理 | AI(一部または全部) | AI(一部または全部) |
4. 判断 | 送る/送らないの線引き、送信を避けるべき条件の適用 | 自社(一部AI) | 委託先+AI(基準は自社が決定) |
5. 改善 | 指標の切り分け、原因分析、文面・条件の修正 | 自社 | 委託先(自社が承認) |
6. 報告 | KPI達成率のとりまとめ、翌月に何を変えるかを決める材料にする | 自社 | 委託先 |
なお、この表は一般的な内容であって、すべてのサービスが当てはまるわけではありません。
例えば、カスタマーサクセスが要件設計や改善提案まで支援するツールもあれば、要件設計や最終的な送信可否を発注企業側に残すAI RPOもあります。
そのため、実際のサービス比較では「ツール」「RPO」という名称だけを見るのではなく、6工程のうち、誰がどこを担当する契約なのかを確認する必要があります。
6工程で見るAIスカウトツールとAI RPOの得意・不得意
以下先程の表からどういうことが言えそうな整理してみたいと思います。
AIスカウトツール
AIスカウトツールを自社で使う利点は、実行作業を効率化しながら、採用方針に合わせた調整を社内で進められることです。候補者の抽出や文面作成を支援してもらいつつ、検索条件や説明内容を自社で見直す形になります。
例えば、現場から「経験年数よりも、担当してきた業務の範囲を重視したい」と意見が出た場合です。設定を変更できるツールなら、社内で基準を確認し、候補者の評価に反映して試せます。仕事内容の変更や、現場から得た新しい情報も、自社で確認して文面に加えられます。
この進め方は、採用担当者が現場の事情を把握しており、変更の判断と作業に時間を使える場合に適しています。外部へ説明して依頼する工程を挟まず、試した結果を見ながら調整できるためです。
ただし、自社で使うからといって、何でも変更できるとは限りません。確認したいのは、検索条件、評価基準、共通文面、生成AIへの指示のうち、どこを自社で変えられるかです。変更のたびに提供会社への依頼が必要なら、その対応範囲と所要時間も運用に影響します。
また、ツールの導入後にも、結果の確認や修正を担当する時間は必要です。送信が自動化されていても、求人内容が変わったことを誰も反映しなければ、以前の説明を使い続けることになります。
社内にノウハウを残したい場合も、履歴が保存されるだけで十分とは考えない方がよいでしょう。検索条件や文面に加えて、変更した理由と、その後の結果を記録します。そうすれば、担当者が交代した際にも、以前の判断を確認できます。
AI RPO
AI RPOの強みは、実行工程だけでなく、その前後の運用工程も外部へ移せることです。
例えば、
- 求人要件から検索条件へ落とし込む
- 運用開始前の準備を行う
- 候補者の判断基準を調整する
- 返信率などを見ながら条件・文面を改善する
- KPIをまとめ、次の施策を提案する
といった工程まで委託できます。
一方で、外部へ任せる範囲が広がるほど、
- 判断の根拠が見えなくなる
- 改善に関する知見が委託先だけに残る
- 契約終了後に同じ運用を再現しにくくなる
といった可能性があります。
AI RPOを利用するときは、「どこまで任せられるか」だけでなく、何を自社に残すかも合わせて設計する必要があります。
どちらを選ぶべきか?3つの質問で確認する
1. 早く内製化したいか、しばらく外注で採用を進める期間があってもよいか
スカウトの運用をなるべく早く社内でできるようにしたいなら、AIスカウトツールを自社で使う方法が候補になります。候補者の抽出や文面作成をAIに任せながら、検索条件の設定、候補者の評価、結果を踏まえた修正を自社で担当する形です。
内製化できているかは、社員がツールを操作しているかだけでは判断できません。条件や結果が変わったときに、自社で運用を見直せるかまで考える必要があります。
例えば、以前は返信が得られていた文面で、反応が少なくなったとします。そのときに、送っている候補者層が変わったのか、求人条件が合わなくなったのか、伝えている仕事内容が不十分なのかを確認し、次に何を試すかを決められる状態が、ここで目指す内製化です。前任者が作った設定で送信を続けるだけでは、運用を担当していても、改善する力が社内にあるとはいえません。
今後も同じ職種の採用を継続し、採用人数や事業の変化に合わせて自社で運用を調整したいなら、こうした経験を社内に残す意味は大きくなります。どのような経歴を持つ人が自社の仕事に関心を示したか、現場が評価した経験は何か、どの説明では仕事の内容が伝わらなかったか。これらを次の募集でも使えるようにすることが、内製化の目的になります。
一定期間は外注で採用を進めてよいなら、AI RPOを使いながら社内へ運用を移す方法も考えられます。外注を使うことと、ノウハウを社内に残すことは両立できます。実際にRPO事業者には、運用の実演、社内担当者による実践、改善の振り返りを通じて、段階的な引き継ぎを支援するところもあります。
例えば、最初は委託先が検索条件と文面を作り、社内担当者はその理由を確認します。次に、社内担当者が結果を読んで修正案を作り、委託先に確認してもらいます。その後、社内で運用する範囲を広げれば、採用を外部に任せている期間を、担当者が実務を学ぶ期間として使えます。
2. 短期の採用目標と、今の人事・採用担当の人手に、どれだけ差があるか
目標に対して人手が大きく足りないなら、すぐに運用を始められるAI RPOに頼るべきです。ツールは、担当者が使い方に慣れるまでの期間が必要で、その間は採用が進みません。人手が足りないのに目標が高い会社ほど、この期間の影響を受けます。
人手は、採用担当者が何人いるかではなく、その担当者がスカウトの運用に毎週何時間を使えるかで確認します。例えば、AIを使っても候補者の確認と条件・文面の修正に週10時間が必要なのに、担当者がほかの人事業務と兼務していて週3時間しか確保できないなら、ツールを導入しても運用の時間は足りません。
採用目標にある程度届いていて、さらに効率を上げたい、そのための工数も割ける、という会社には、AIスカウトツールがマッチすると思われます。
3. 担当者に、スカウトのノウハウがあるか
ここでいうノウハウは、返信が来ないときに、原因が送る相手にあるのか、文面にあるのかを見分けて直せることです。時間があってもノウハウがなければ、ツールを使っても同じ送り方を繰り返すことになります。
3つの質問への答えを合わせると、次のように整理できます。内製化したいという希望だけでなく、今の担当者が引き受けられる仕事と時間を基準に選びます。
自社の状況 | 検討する方法 |
採用基準や改善方法を自社で判断でき、運用する時間も確保できる | AIスカウトツールを使い、候補者の確認や文面作成などの負担を減らす |
運用する時間は取れるが、要件設計や文面改善の経験が不足している | ツールに立ち上げ・改善支援を組み合わせる。助言後の修正を誰が担当するかも確認する |
短期の採用目標に対して、設計・実行・改善を担当する時間が足りない | 不足する工程をAI RPOへ委託する。開始までの日程と、自社に残る作業を確認する |
将来は内製化したいが、当面は採用を進めることを優先したい | AI RPOで開始し、社内担当者の実務参加と引き継ぎを段階的に進める |
継続的に外部へ任せ、社内の時間を別の採用業務へ使いたい | AI RPOを利用し、社内で判断する事項、報告内容、見直しの方法を決める |
費用は「サービス料金+自社に残る工数」で比べる
サービスを比較するとき、表示されている月額料金だけを比べると判断を誤ることがあります。
例えば、
- ツール:月5万円
- AI RPO:月30万円
なら、ツールの方が圧倒的に安く見えます。
しかしツール型では、要件設計・立ち上げ・判断・改善・報告を自社で行う場合、その人件費が別に発生しています。
自社に残る工数を費用に換算する
実質的なコストは、次の式で計算します。
実質コスト = サービス料金 +(自社に残る工程の月次工数 × 担当者の時間単価)+ 立ち上げ工数の按分
ツールとAI RPOで、自社に残る作業は次のように違います。
ツール | AI RPO | |
自社に残る作業 | 要件設計、立ち上げ、判断、改善、報告 | 求人要件の承認、候補者判定の確認、定例への参加、改善案の承認、返信後の対応 |
立ち上げを行う人 | 自社 | 委託先 |
立ち上げは毎月発生するわけではありませんが、ポジションの追加、要件の変更、新しい媒体の利用、ターゲットの大幅な変更があれば、もう一度発生します。
計算式の例示
以下の数値は、計算方法を説明するための仮の例です。3ポジションを運用し、社内の担当者の時間単価を3,000円、ポジションの運用期間を平均6か月とします。
項目 | 計算 | ツール | AI RPO |
サービス料金 | 月額 | 50,000円 | 300,000円 |
自社に残る工程の月次工数 | 月の時間 × 3,000円 | 40時間 → 120,000円 | 10時間 → 30,000円 |
立ち上げ工数の按分 | 1ポジションの時間 × 3ポジション × 3,000円 ÷ 6か月 | 20時間 → 30,000円 | 委託先が行う → 0円 |
実質コスト(月) | 200,000円 | 330,000円 |
月額料金だけを比べると、ツールとAI RPOの差は6倍です。自社に残る工数を足すと、差は1.65倍(200,000円と330,000円)まで縮まります。
一概に見えている費用だけを比較するのではなく、実際のコストを比較した上で、費用対効果を検討することが肝要です。
また、金額だけでなく、各選択肢によって削減できた時間を、担当者が何に使えるのかも合わせて考え、最終的にリスク・リターンの見合いを検討する流れになると考えられます。
ツールかAI RPOかの二択にしない
最初から、どちらか一方を永久に使い続ける必要はありません。
例えば、
最初の立ち上げと改善を外部へ任せ、運用の型ができた段階でツール型へ移行する
という進め方もあります。
ここでいう「型」は、
- ペルソナ
- 検索条件
- 文面の構造
- 判定基準
- KPI
- 振り返りのルール
などです。
将来的な内製化を考えるなら、契約前に次を確認します。
決めておくこと | 確認する内容 |
合否目線 | どの判定基準で運用しているか |
文書化 | KPI、改善ルール、判定基準を受け取れるか |
改善判断 | 移行後に誰が改善を判断するか |
データ | 候補者・送信・返信履歴を出力できるか |
成果物 | テンプレート・判定基準等を終了後も使えるか |
過去実績 | 委託期間中のデータを終了後も利用できるか |
再現性 | 別のツールでも運用を再現できるか |
アカウント | 検索条件や設定等を引き継げるか |
まとめ
AIスカウトツールとAI RPOを選ぶときは、候補者検索や文面生成の機能だけでなく、導入後に必要な仕事を誰が担当するかを確認します。作業時間を減らせば自社で運用を続けられるのか、それとも要件設計や改善を進める人も必要なのかによって、選ぶ方法は変わります。
費用は、サービス料金と社内に残る作業時間を合わせ、同じ業務範囲と期間で比べます。外注から内製化へ移る予定があるなら、運用中から判断の経緯を共有してもらい、社内担当者が実務を担当する機会も設けます。
サービスを選ぶ前に、自社で担当できる仕事と、時間や経験が足りない仕事を整理することが先です。 その不足を補える機能や支援を選び、契約後も無理なく運用を続けられるかを確かめてください。
AI採用にお悩みがあればお気軽にご相談ください
6工程のうちどこが自社で埋められ、どこに担い手がいないのか。御社の状況をヒアリングした上で、御社に合う進め方をご提案します。「まずはツール型で十分です」という結論になることもあります。株式会社プロリクでは、用途ごとに設計したAIワークフローを活用したAI RPO(採用代行)を提供しています。お気軽にお問い合わせいただけると幸いです。
弊社お問い合わせ窓口
著者について
高木 篤(株式会社プロリク)
大学卒業後、IT系ベンチャー企業で営業に従事。入社から3年でマネージャーに就任し、10名の営業チームを率いる。その後、リクルートグループのRGFにてリクルーティングアドバイザー(RA)として、製造業を中心に大手企業を含む顧客の採用を支援。2020年下半期には全社トップセールス賞を受賞。
現在は株式会社プロリクにて、採用支援プロジェクトのマネジメントを担当。採用戦略の策定・設計から母集団形成、選考過程の改善まで幅広く携わり、スタートアップから大手上場企業まで、これまで40社以上の採用を支援している。
よくある質問
Q. AIスカウトツールとAI RPOの料金はどう比較すればよいですか?
サービス料金だけでなく、自社に残る要件設計・判断・改善などの工数も含めて比較します。本記事で紹介した「サービス料金+自社に残る工数」の形で双方を同じ条件に揃えてください。
Q. AI RPOに任せると、社内にノウハウが残らないのでしょうか?
委託方法によります。検索条件、判定基準、文面、KPI、改善履歴などを自社でも確認・利用できる状態にしておけば、ノウハウを残しやすくなります。将来的な内製化を考えている場合は、契約前にデータや成果物の引き継ぎ条件を確認してください。
Q. AIスカウトツールが向いているのは、どんな会社ですか?
採用目標にある程度届いていて、さらに効率を上げたい会社です。そのための工数を割けて、担当者にスカウトのノウハウがあることが前提です。早く内製化したい会社も、検索条件や文面、改善の記録が社内に残るため、ツールを選ぶ比重が高くなります。
Q. AI RPOが向いているのは、どんな会社ですか?
短期の採用目標に対して、人事・採用担当の人手が大きく足りない会社です。ツールは担当者が使い方に慣れるまでの期間が必要で、その間は採用が進みません。しばらく外注で採用を進めてよく、社内の人手を割きたくない会社にも向いています。
Q. AI RPOから内製化するとき、委託先から何を受け取ればよいですか?
判定基準、KPIと改善ルール、候補者・送信・返信の履歴、テンプレート、検索条件や設定です。契約終了後もこれらを使えるか、別のツールでも同じ運用を再現できるかを、契約前に確認してください。
Q. AIを使った運用代行かどうかは、どう見分ければよいですか?
「AIを使っている」という説明だけでなく、どの工程をAIが処理するのか、人がどこで判断するのか、企業ごとの判定基準や除外条件を反映できるのかを確認してください。可能であれば、実際の運用フローやデモも確認すると判断しやすくなります。
Q. ツール型で始めてからAI RPOへ変更できますか?
可能です。切り替える際に、検索条件、送信履歴、返信結果、判定基準などが整理されているほど、次の運用へ引き継ぎやすくなります。
逆にAI RPOからツール型へ移行する場合は、契約終了後も必要なデータ・設定・判断基準を利用できるかを、あらかじめ確認しておく必要があります。
Q. 候補者の情報をAIで扱うときは何を確認すればよいですか?
利用目的の範囲、入力した情報がAI提供元でどのように利用されるか、保存期間、削除方法などを確認してください。
AI RPOでは、これに加えて運用担当者・再委託先のアクセス、海外での処理・保存、契約終了後の削除なども確認する必要があります。
参考文献、資料
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(令和5年6月2日): https://www.ppc.go.jp/news/careful_information/230602_AI_utilize_alert/