AHRとは?人とAIの働き方をリデザインする新しい経営概念
AHR(AI and Human Resources)とは、企業の経営課題に向き合う組織能力を充足させるため、AI資源と人的資源を経営資源として設計・運用・再配分する、株式会社プロリクが2025年6月に提唱した実践フレームです。従来のHRが人的資源のみを扱ったのに対し、AHRはAIを人と並ぶ「経営のコア資源」と捉え、組織能力獲得を目指す考え方です。
AHRの提唱について
AHR(AI and Human Resources)は、株式会社プロリク代表取締役・橋崎良哉が2025年6月9日に提唱した概念です。 AIスタートアップCOO(エッジテクノロジー株式会社、2012-2018年)として機械学習ビジネスに携わり、その後人材支援企業経営(2020年〜)で採用代行100社以上を支援した経験から、「人的資源のみを扱う従来のHR部門では、AI時代の組織変革に対応できない」という課題意識のもと、人とAIの最適配分を経営課題として定義しました。
📄 初出: HRからAHR (AI and Human Resources)へ(note, 2025年6月9日)
この記事の要点(TL;DR)
- 背景: AIは「ツール」から「労働力(資源)」へ質的に変化し、雇用に影響を与え始めた。
- 課題: AIを「効率化ツール(人間ファースト)」と捉えると成果が出ない(PwC調査)。
- 解決: AIを「経営資源(経営ファースト)」と捉え、経営課題から逆算し再配分する必要がある。
- AHRとは: この「資源」思考を実践するフレーム。経営計画からAIで先に組織能力を充足→不足を人で補完する。
- 詳細: AHRの3つの機能 | AI時代の人事評価制度 | AIが組織文化に与える影響
誰もが驚くほどの急速な技術の進展
AHRという概念をお話する前に、まずは私達をとりまく外部環境を整理したいと思います。
まず大きな変化として挙げられるのが、この1~2年生成AIという技術自体の急速な質的転換があります。
2023年頃の生成AIは、まだ「単発の質問応答」が中心でした。人間がプロンプト(指示)を入力し、AIが1回のテキストを出力する。高性能ではあっても、あくまで人間が次の指示を考え、作業を繋げる必要がありました。
しかし、登場からわずか2年後の2025年現在では非常に多くの技術的発展が見られています。
たとえば、人間が「最終ゴール」を指示するだけで、達成に必要な手順や中間成果物をAIが自律的に計画するようなAIエージェントの出現(Claude Codeのような挙動のイメージですね)。また、ツール間のデータ連携をスムーズにするためのMCP (Model Context Protocol)が整備され始め、AIモデルが、社内のデータや業務ツールへ容易に接続できるようになりました。2025年10月リリースのChatGPT AtlasのようなAIブラウザも非常に強力な技術であり、Webや社内ナレッジを能動的に探索し、情報を収集、要約、さらには比較検討するまでになりました。
このような技術は単なるツールというよりも、人間の作業を十分に代替しうる技術水準となってきています。ChatのUIで入出力の「点」で機能するだけでなく、業務プロセス/ワークフローとして「線」や一部「面」のような動きも行う、まさに人間と一部同等または同等以上の役割を担える状況となってきています。
AIの企業の雇用への影響が表面化する時代になった
生成AIが登場した当初は「AIは仕事を奪うのか」が抽象的に語られていましたが、前述のような技術的発展を背景として、2025年に入りAIと雇用に関する議論はより現実味を帯びてきつつあります。
2025年6月、米アマゾンのアンディ・ジャシーCEOは、従業員向け書簡で「AIによる効率化により、今後数年間で管理部門の従業員数が減少する」という見通しを示しました。グローバル企業のトップが、AIの導入と人員構成の変化について公に初めて言及するケースが出てきたわけです。 また、ニューヨーク連銀のデータでは、22〜27歳の大卒失業率が2025年春に5.8%とコロナ後で相対的に高い水準に上昇。専攻別ではコンピュータ工学の新卒失業率が7.5%と、IT系でさえ就職難に直面する兆しが示されました。この結果は各所で驚きを持って紹介されているデータですが、景気循環だけでは説明しづらい、職務内容のAI代替という要因が含まれている可能性が指摘されているという状況です。
AIファーストで、AIが働きやすいプロセスを整えることが重要
ここまで見てきたように、AI技術はこの1~2年で作業の補助から業務の代行へと質的に変化したと言えます。もはやAIは単なる効率化のツールではなく、企業としての労働力として力を発揮しつつあります。
一方で、AIによる成果を十分に得られている企業と、あまり得られていない企業が存在することも様々な調査で分かってきています。
たとえばPwC Japanグループの調査を挙げてみたいと思います。
世界における生成AI活用の潮流の中での日本の現在地を多角的に明らかにするため、PwCが2025年春に5カ国比較調査を実施しました。この調査によれば、生成AIの活用効果が「期待を上回る」と回答した日本企業の割合は、アメリカやイギリスの約4分の1、ドイツや中国の半分となりました。なお、日本企業は、活用の推進度が一定の水準に達しているということもあわせて報告されています。つまり、一定程度日本企業で導入が進んでいるにもかかわらず、期待を上回る効果を実感している企業は限られており、むしろ効果が期待を下回る企業が増えている(PwCの調査は定期的な調査であるため経年変化を観察可能)という状況が明らかになりました。
では、なぜ日本企業は生成AI導入によって成果を挙げることができないのか?という点について深堀っていきたいと思います。
同調査によれば、AI活用で「期待を上回る」成果を出す企業は、AIを「業界構造改革のチャンス」と捉える割合が55%、「期待未満」に終わる企業(日本企業に多い傾向)は15%業務という低い値に留まっています。また業務プロセスとして、生成AIによる業務置き換えの見込みの設問では、「期待を上回る」成果を出す企業は約7割が「完全に置き換わる(100%を置き換え)」「大部分が置き換わる(60~80%程度置き換え)」と回答した一方、期待未満と回答した層では15%程度(日本企業は各々1%、14%)にとどまっています。その代わりに、「AIエージェント導入」をした、という具体的なツール導入の実績を挙げる企業が相対的に高く、日本企業では26%となっています。つまり、日本企業は、「AIエージェント導入」というツール主体で思考し、AIと向き合っていることが特徴であり、プロセスを大きく変えようと考えていない、ということです。あくまでAIは人間のプロセスを支えるツールに留まっている、という態度が、成果を挙げている企業との極めて大きな違いであることが浮き彫りになっています。
海外先進企業と日本企業のAI活用の違い(PwC調査に基づく概観)
項目 | 海外の先進企業 | 日本企業 |
AI導入の範囲 | 全社的なリソースとして活用。業務プロセスの完全な置き換え、または既存業務にしっかり組み込まれている。 | 部門ごとの部分的な効率化。各部署が個別にAIツールを導入し、特定の業務効率化を進める。 |
得られる成果 | 戦略的業務への集中。ルーティンワークから解放された社員が、人にしかできない付加価値業務に注力。 | 極めて部分的な効率化に留まり、ワークフローにまで落とし込まれていない。 |
背景にある考え方 | AIを「経営のコア資源」と捉える。AIへの投資を、組織全体の生産性を高めるための戦略的投資と位置付けている。 | AIを「業務効率化のためのツール」と捉え、あくまで人間主体で人間のためのツールとして利用がされている。 |
AIの成果を挙げ、人間との協働を考えるAHR
このような外部環境、背景を踏まえ、AIとHR(Human Resources)に長く向き合ってきた立場として、株式会社プロリクはAHR(AI and Human Resources)という概念を提案させていただいています。AHR(AI and Human Resources)とは、企業の経営課題に向き合う組織能力を充足させるため、AI資源と人的資源を経営資源として設計・運用・再配分するという考え方です。企業は解決したい経営課題や事業課題に対し、必要な組織能力を定義し充足に向けて活動しています。その組織能力醸成の営みの中で、AHRは、AIであればどこまでのことが自動化できるか、どこまでを担えるかを計測、設計、実装し、大幅な効率化を図った上で、残りの足りない組織能力を人に分配していく、というAIファーストの考え方である、とも言い換えることが出来ます。従来のHRは人的資源のみを扱っていますが、AHRはAIを人と並ぶ「経営資源」と捉え、ツールではなく極めて重要な資源として扱っていくべきだと考えています。
以下、簡単に従来のHRとAHRとの違いを整理してみました。
項目 | 従来のHR(Human Resources) | AHR(AI and Human Resources) |
人的資源の捉え方 | 人・物・金・情報という経営資源における人的資源 | 人的資源を拡大解釈した、AI資源+人的資源 |
ミッション | ・未来の経営計画に対して組織の組織能力を判定しその達成に尽力すること
・そのために人材という資源を活用し、採用、育成、教育、配置、評価などを通して、個々の人のパフォーマンスを最大化する | ・未来の経営課題や事業課題に対して組織の組織能力を定義し、その充足に尽力すること
・そのために、AIのポテンシャルを正しく理解し、AIファーストで組織能力を充足させることに責任を負う
・その上で、足りない組織能力を人材という資源を活用し、採用、育成、教育、配置、評価などを通して、個々の人のパフォーマンスを最大化する |
AIへの向き合い方、捉え方 | 人間ファーストで、人間の業務プロセスを効率化してくれるツールであり、既存業務にAIを組み込むことを考える対象 | ・AIはツールではなく重要な労働力であり、AIが働きやすい(稼働しやすい)環境、稼働しやすい業務プロセスへと抜本的に変革する、AIファーストの思想 |
過渡期としてのAHR
とはいえ、私たちはAHRが永続的な組織概念だとは考えていません。 「人がAIを管理する」のではなく、「AIがAIを管理する」時代がいつか来ると思われます。AHRは、そこに至るまでの「過渡期」のフレームであり、一過性のものでありつつも今まさに重要な概念であると考えています。
なぜIT部門ではなく、「人事部」がAHRの旗振り役なのか?
生成AIのブーム以前からDX(デジタルトランスフォーメーション)は活発であり、多くの企業にはすでにDX推進室や情報システム部門が存在します。そのため、「AI活用も、既存のDX推進室や各事業部が個別に進めるべきではないか?」という疑問は当然のものです。その違いは、前述の、「ツール思考でAIを扱うかどうか」、という点に集約されます。DX部門はあくまでデジタル技術やツールを用いた効率化に取り組む部署です。厳密にはDX化とIT化は違いますが、実態として多くの日本企業はIT化を主なものとしてDXが叫ばれ、進められてきた背景があります。
先に見たように、IT化の一環としてAIをただのツールとみなして既存プロセスに当てはめようとしても生産性は高まりません。人間のプロセスではなく、AI側に業務プロセスを合わせるという大胆な意思決定は、対象が「IT化」「システム」とみなされる以上極めて難しいものです。
その意味で、AIを一緒に働く労働力、同僚のようなものと捉えてAIが動きやすいプロセスを作るというAHRの考え方を実現するのは既存の部門では難しいと考えているわけです。
人事部はAIのみならず人的資源を含めて設計可能な部署である
AHRの本質的なミッションである「経営計画に基づいた、全社的なリソース(AIと人)の最適配分」を実行するためにはAIと人両輪で経営に資する配分を考える必要があります。その意味で人事部はまさにその両面を経営直結で担う部署であると言えます。
一方で、既存の「人事部」のメンバーがそれを担えのか?というとまたそれは別の議論です。生成AIという新しい技術を広く深く理解し、全社目線で配分を考えるというスキルは現時点ではまだ極めて希少であり、また獲得困難性も一定程度あるスキルだと思います。したがって、無理に既存の「人事部」という枠組みでどうAHRを実現するのか?と問うのではなく、役割として、そのような希少なスキルを持った人材と既存の人事メンバーが一緒に動くという観点が重要だと考えています。
項目 | 従来のDX推進室・IT部門 | AHR |
主目的 | 業務プロセスのデジタル化・効率化(IT化) | 経営計画達成のためのリソース(AI+人)最適配分 |
AIの捉え方 | IT化の一環としての、効率化のための「ツール」「システム」 | 人と並ぶ経営・事業目標を達成するための資源 |
限界・壁 | 「人」の再配置・評価・育成の権限がない | AIと組織設計の両方に精通した人材が希少 |
AHRが担う3つの「主要ファンクション」
AHRが担う機能として考えているものは以下の3つです。
1. 経営課題から逆算したAIと人の最適配分
従来のIT化、AI導入は、「どのAIツールを使うべきか?」「どのプロセスを効率化できるか?」という問いから始まっているように思います。しかし、AIの能力が極めて高まっている現状を踏まえ、AHRではまず企業がどのような経営・事業課題があり、そのためにどのような組織能力が必要とされているのか?そして、ボトルネックになっているものは何であるかを特定し可視化します。
ここで言う、組織能力とは、経営課題に対して一定の品質で再現性高く実行できる「組織としてのできること」を指して用いています。ある研究では、組織能力は「①経営資源(人材・資本・データ・設備など)」と「②それらを動かすプロセス」、そして「③企業の価値判断基準」の3つで形成されると定義されており、資源の有無だけでなく、資源をどうプロセスとして再現性ある形で用いるのか、またそもそもどういう方向でどのように資源を用いてプロセス化するのかという方針決定を行うための基準を兼ね備えたものであるとされています。
したがって、組織能力を充足させるために、AHRではどういう資源(人材・資本・データ・設備など)を活かし、どういう業務プロセスに落ちるのかを詳細に分解し、「どのプロセスをAI化できるか」その上で「どのプロセスを(現時点では)人が担うべきか」を定義します。
2. AIファーストの業務プロセスの再設計と実装
ファンクション1の定義(「どの部分をAI化できるか」「どの部分は人が担うべきか」)に沿いつつ、AIファーストでAIが働きやすいように業務プロセスを具体的に再設計し、それにあわせたAI導入や人的資源の配置を実施するというファンクションが2つ目です。
組織能力を充足させるための最適なAIエージェント選定やAI SaaSの選定・導入、あるいは内製開発を実施し、また同時に、人的資源の配分としてAIでは補いきれない業務(例:高度な交渉、顧客折衝、戦略的意思決定など)を特定し、その業務を担う人材の採用や教育、配置換えなどを行います。
3. AI資源と人的資源の継続的評価とリバランス
ファンクション1で設計し、ファンクション2で実装したAIと人の配分は、「一度決めたら終わり」ではありません。
AIの技術進化は極めて速く、半年前は「人間でなければ無理」だった業務が、今日ではAIエージェントで自動化可能になっている、ということが日常的に起きているからです。
AHRのファンクション3として、この変化に対応し続けるための継続的な「評価」と「リバランス」の機能があると考えています。
AIが狙った通りの組織能力を担えているか、新しい技術が出て置換を検討する必要はないのか、またそれによって人的資源にどう影響があるのか、AI時代における人に対する向き合い方(人事制度、評価制度のあり方、組織文化の作り方)をどう再定義していくか。こういった点がファンクションとして求められていると考えています。
まとめ:AI時代、組織能力をどう考えるか
本記事ではAHR(AI and Human Resources)という概念をご紹介させていただきました。急速に発展、変化しているAIという技術にあわせ、企業も人事も変化が迫られていると感じています。 もしAIや人の課題にお悩みでしたら、まずはお気軽に無料相談可能です。お声がけいただけると幸いです。
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著者について
宮前 貴史(株式会社プロリク )
大学卒業後、個人事業主として約5年半にわたり、BtoC・BtoB領域で営業から企画・運営までを一気通貫で経験。その後、ベンチャー企業にて採用担当として制度設計に従事し、さらにRPOサービスの立ち上げ責任者として、スカウト業務の仕組み化から実践までを牽引。プロリク参画後は、その豊富な実務経験を活かし、ITエンジニアのスカウト業務を中心に複数クライアントの採用成功を支援している
AHRのよくある質問
Q. AHRとは何ですか?
企業の経営課題に向き合う組織能力を充足させるため、AI資源と人的資源を同列の経営資源として設計・運用・再配分し、全社生産性を最大化する実践フレームです。
Q. AHRとは、結局のところ、これまでの人事(HR)と何が違うのでしょうか?
A. 最も大きな違いは、何を「資源」として見るか、という視点です。そもそも経営資源とは、企業が価値を生み出すために「依拠できる行動・物・手段」のことです。古典的には「人・物・金・情報」が挙げられます。従来のHRが「人」だけを人的資源としてそのパフォーマンス最大化を目指したのに対し、AHRは「人」も「AI」も経営資源であると捉えています。経営課題を解決するために組織としてどう能力を充足させるか。この問いに向き合う人的資本の観点での選択肢が人だけではなくなったと考えています。
Q. なぜ人事部がAI活用の旗振り役を担うべきなのですか?
A. 人事部は経営計画と組織全体の能力を理解している、部門だからです。特定の部門の効率化に留まりがちな従来のIT部門とは異なり、組織能力獲得のために、人とAIの最適な組み合わせを全社視点で考え、経営課題の解決に直接繋げることができると考えています。
参考文献、資料
- PwC Japan(2025)『生成AIに関する実態調査2025春』
- 木下(2023)『ダイナミック・ケイパビリティのフレームワーク:資源ベース再構成の組織能力』