歯科衛生士の免許を持つ人は31万人を超えています。ところが、実際に歯科衛生士として働いているのは約15万人。半分以上が、資格を持ちながら現場の外にいます。これが歯科衛生士採用の出発点です。国家試験の合格者は毎年7,000人以上いて供給が細っているわけではないのに採れないのは、辞めた人が戻ってこない「潜在化」が起きているからです。
本記事では、厚生労働省の公的統計と日本歯科衛生士会の実態調査をもとに、歯科衛生士の人数と就業先、潜在化の規模、転職・離職の理由、そして採用に活かす見方までを整理します。歯科医院の採用を外部に委託する方法を先に比較したい場合は、【許可番号つき】医療・介護の採用代行(RPO)11社比較|職種別の選び方【2026年版】をご覧ください。本記事は、その前提として歯科衛生士がなぜ動くのかを、データで確認するものです。
💡この記事の要点(TL;DR)
- 免許保有者の半分以上が働いていない: 歯科衛生士の免許登録者は31万4,143人(2022年)に対し、就業しているのは14万5,183人で、就業割合は46.2%です。約16万9,000人が資格を持ちながら現場の外にいます。歯科衛生士採用は「供給が足りない」のではなく「潜在層が多い」構造です。
- 9割が歯科診療所で、少人数運営: 就業先の90.6%が歯科診療所です。歯科医師1人だけの診療所が74.8%を占め、1施設あたりの歯科衛生士は平均2.0人。この少人数構造が、院長との人間関係の重みと、欠員に弱い体質を生みます。
- 転職理由の最上位は給与・待遇、次いで人間関係: 転職や勤務先を替えたいと考えた理由(複数回答)は、給与・待遇の面が46.5%で最多、仕事内容34.4%、勤務形態・勤務時間30.9%、経営者との人間関係22.8%と続きます。ほぼ全員が女性(99%以上)で、出産・育児が離職の大きな節目になります。
免許は31万人、働くのは15万人——潜在歯科衛生士という構造
歯科衛生士の最大の特徴は、免許保有者が多いのに、就業している人はその半分以下だということです。 厚生労働省の検討会資料によると、2022年の歯科衛生士免許登録者は31万4,143人で、就業している歯科衛生士は14万5,183人、就業割合は46.2%でした。差し引き約16万9,000人が、資格を持ちながら就業していません。
なお、この潜在層は年を経ても比率は変わっていません。厚生労働省の直近資料では、2024年12月時点の年齢階級別の集計を積み上げると、免許登録者は32万1,238人、就業者は14万9,579人で、差は約17万2,000人にのぼります。免許を持つ人は増え続けていますが、そのうち現場で働く割合は半分を切ったままです。
就業者そのものは増えています。厚生労働省「衛生行政報告例」によると、就業歯科衛生士は2014年の11万6,299人から2024年の14万9,579人へ、10年で3万3,280人増えました。国家試験の合格者も毎年多く、2026年は受験者7,882人・合格者7,452人・合格率94.5%でした。養成校は全国に35校(2025年5月時点、大学14・短期大学17・専修学校4)、入学定員は約1,962人です。
つまり、歯科衛生士は「新しく資格を取る人が足りない」わけではありません。取った資格を持つ人の半分以上が働いていない、という潜在化が採用難の根にあります。採用を考えるうえで、この潜在層をどう掘り起こすかが、新卒の奪い合いと同じくらい重要になります。
歯科衛生士はどこで働いているか
歯科衛生士のほぼ全員が、歯科診療所という小さな職場で働いています。 厚生労働省「衛生行政報告例」(2024年)によると、就業先の内訳は次のとおりです。
就業先 | 人数 | 構成比 |
診療所(歯科医院) | 135,499人 | 90.6% |
病院 | 7,675人 | 5.1% |
市区町村 | 1,929人 | 1.3% |
介護保険施設等 | 1,533人 | 1.0% |
歯科衛生士学校・養成所 | 1,123人 | 0.8% |
保健所 | 768人 | 0.5% |
出典: 厚生労働省「衛生行政報告例(就業医療関係者)」2024年。就業歯科衛生士 計14万9,579人。
就業先の90.6%が歯科診療所です。看護師が病院に、薬剤師が薬局に集まるのと同じく、歯科衛生士は歯科医院に集中しています。しかもその歯科医院は、多くが少人数の職場です。歯科衛生士が勤務している歯科診療所は4万7,665施設あり、そのうち歯科医師が1人だけの診療所が74.8%(4万6,261施設)を占めます。1施設あたりの歯科衛生士は平均2.0人にとどまります。
この「小さな職場に2人前後」という構造が、後で述べる離職理由(院長との人間関係、休みの取りにくさ)に直結します。1人が辞めると業務が回らなくなり、残った歯科衛生士の負担が一気に増える——欠員に弱い体質が、歯科医院には構造的にあります。
年齢分布と、ほぼ全員が女性という事実
就業歯科衛生士で最も多いのは25〜29歳ですが、年齢は幅広く分布しています。そして、就業者の99%以上が女性です。 2024年の年齢分布は次のとおりです。
年齢階級 | 人数 | 構成比 |
25歳未満 | 14,417人 | 9.6% |
25〜29歳 | 20,043人 | 13.4% |
30〜34歳 | 16,805人 | 11.2% |
35〜39歳 | 18,130人 | 12.1% |
40〜44歳 | 18,938人 | 12.7% |
45〜49歳 | 18,738人 | 12.5% |
50〜54歳 | 17,320人 | 11.6% |
55〜59歳 | 12,621人 | 8.4% |
60〜64歳 | 7,850人 | 5.2% |
65歳以上 | 4,717人 | 3.2% |
出典: 厚生労働省「衛生行政報告例」2024年、厚生労働省検討会資料。
最も多いのは25〜29歳(13.4%)ですが、40〜44歳(12.7%)、45〜49歳(12.5%)も並んで多く、若手に極端に偏ってはいません。20代で就業した後、30代でいったん人数が減り、40代で戻る——出産・育児で離職し、その後に復職する動きが、この分布に表れています。
男女比では、2022年時点で就業歯科衛生士14万5,183人のうち男性はわずか171人で、女性が99%以上を占めます。これは医療専門職のなかでも際立って女性比率が高い職種です。結婚・出産・育児・介護といったライフイベントが、そのまま離職と潜在化の大きな要因になります。採用・定着を考えるうえで、ライフステージへの配慮は付随的な論点ではなく、中心的な論点になります。
転職経験者が8割という職種
歯科衛生士は、一度は勤務先を変える人が大多数です。 日本歯科衛生士会「第10回歯科衛生士の勤務実態調査」(2024年)では、就業者のうち転職経験のある人が80.8%にのぼります。過去の調査でも「勤務先を変わったことはない」人は全体で22.2%にとどまり、常勤で33.1%、非常勤では7.3%でした。多くの歯科衛生士が、キャリアのどこかで別の医院へ移っています。
雇用形態は、常勤が58.0%、非常勤が37.4%です(2024年調査)。非常勤の割合が高く、出産・育児やライフスタイルの変化に合わせて、常勤から非常勤へ、あるいは離職から非常勤での復職へ、といった働き方の調整が頻繁に起きます。歯科衛生士の採用市場で動いているのは新卒だけではなく、資格と経験を持ち、働き方の合う職場を探している経験者が中心です。
歯科衛生士が転職・離職する理由
歯科衛生士が動く理由の最上位は給与・待遇で、次いで仕事内容、勤務形態、そして経営者(院長)との人間関係です。 日本歯科衛生士会の調査で、「転職または現在の勤務先を替えたいと考えた理由」(複数回答)の上位は次のとおりでした。
転職・現職を替えたいと考えた理由(複数回答) | 割合 |
給与・待遇の面 | 46.5% |
仕事内容 | 34.4% |
勤務形態・勤務時間 | 30.9% |
自分の健康 | 23.1% |
経営者との人間関係 | 22.8% |
長時間勤務・過重労働 | 21.5% |
仕事内容のレベルアップのため | 20.7% |
出典: 日本歯科衛生士会「第10回歯科衛生士の勤務実態調査報告書」2024年(全体 n=3,192)。
給与・待遇が46.5%で突出し、続いて仕事内容、勤務形態・勤務時間と、働く条件そのものが上位に並びます。同じ調査で、実際に勤務先を変わった人の「主な理由」を見ると、出産・育児14.7%、経営者との人間関係13.1%、結婚11.5%と、ライフイベントと人間関係が前に出ます。「替えたい」と思う段階では給与・待遇が最大の不満でも、実際に辞める引き金はライフイベントや院長との相性、という二段構えになっています。
若い世代ほど給与・待遇や仕事内容が理由になりやすく、30代以降は出産・育児・結婚といった家庭の事情が理由の上位に入る、という違いも見られます。
なぜ「院長との人間関係」がこれほど影響が高いのか
歯科衛生士の離職理由に「経営者との人間関係」が繰り返し上位に来るのは、職場が小さく、院長との距離が近すぎるほど近いからです。 前述のとおり、歯科医師1人だけの診療所が74.8%を占め、1施設あたりの歯科衛生士は平均2.0人です。看護師の病院のように、部署異動で人間関係をリセットすることも、上司を選び直すこともできません。
小さな職場では、院長の方針・気分・マネジメントの巧拙が、そのまま毎日の働きやすさになります。院長との相性が合わなければ、逃げ場がなく、辞めるしか選択肢がなくなります。逆に言えば、院長のコミュニケーションと労務管理が、歯科衛生士の定着を大きく左右します。これは大規模組織の採用にはない、歯科医院固有の事情です。採用の場面でも、「どんな院長のもとで、どんなチームで働くのか」が、給与条件と同じくらい応募の決め手になります。
採用担当者は、この実態をどう採用・訴求に活かすか
歯科衛生士を新卒の奪い合いだけで考えず、潜在層とライフステージに合わせて、見せる情報と働き方の選択肢を用意するほうが成果につながります。 ここまでのデータをもとに、代表的な層に分けると、優先して伝えるべき情報が変わります。
層 | 主な関心 | 優先して伝える情報 |
新卒・若手(20代) | 給与・待遇、仕事内容、教育体制 | 初任給と昇給、任せる業務の範囲、院長・先輩の指導体制 |
出産・育児期(30代) | 勤務時間、休みの取りやすさ、両立 | 時短・非常勤の選択、急な休みへの対応、復帰しやすさ |
復職を考える潜在層 | ブランクへの不安、勤務形態 | ブランク者の受け入れ実績、週2〜3日勤務、最新機器・手技の再教育 |
経験を生かす中堅(40代〜) | 専門性の評価、人間関係、待遇 | 専門・認定資格の評価、役割の明確化、院長との関係の見える化 |
歯科衛生士の就業者の78.6%が待遇改善を希望しています。給与・待遇が最大の不満である以上、条件面の提示は避けて通れません。同時に、実際に辞める引き金が院長との人間関係やライフイベントであることを踏まえると、「誰と、どんな働き方で働けるか」を求人の段階で具体的に伝えることが、応募後のミスマッチと早期離職を減らします。とくに、資格を持ちながら働いていない潜在層は、条件と働き方が合えば戻る可能性のある大きな母集団です。
こうした採用実務を自院だけで回すのが難しい場合、採用業務を外部に委託する採用代行(RPO)という方法があります。全体像は【2026年版】RPO(採用代行)とは?費用相場・メリット・選び方をご参考ください。
また、歯科を得意した採用代行を探す場合は、歯科の採用代行(RPO)比較6社|歯科医師・歯科衛生士・歯科助手別の選び方【2026年版】にて解説しています。
まとめ
歯科衛生士の転職を理解するうえで、まず押さえるべきは潜在化です。免許登録者は31万人を超えるのに、就業しているのは約15万人で、半分以上が現場の外にいます。国家試験の合格者は毎年7,000人以上いて供給は細っていないのに採れないのは、辞めた人が戻ってこないからです。
就業者の90.6%は歯科診療所に勤め、その多くが歯科医師1人・歯科衛生士2人前後の小さな職場です。就業者の99%以上が女性で、出産・育児が離職の大きな節目になります。転職を考える最大の理由は給与・待遇(46.5%)ですが、実際に辞める引き金は、ライフイベントと院長との人間関係です。小さな職場ゆえに、院長との相性が定着を大きく左右します。
採用の側でできることは、新卒の奪い合いだけに頼らず、潜在層とライフステージに合わせて、待遇・働き方・「誰と働くか」を具体的に伝えることです。歯科衛生士がなぜ辞め、なぜ戻らないのかを踏まえて採用を設計することが、応募の入口から入職後の定着までを左右します。
著者について
宮前 貴史(株式会社プロリク )
大学卒業後、個人事業主として約5年半にわたり、BtoC・BtoB領域で営業から企画・運営までを一気通貫で経験。その後、ベンチャー企業にて採用担当として制度設計に従事し、さらにRPOサービスの立ち上げ責任者として、スカウト業務の仕組み化から実践までを牽引。プロリク参画後は、その豊富な実務経験を活かし、ITエンジニアのスカウト業務を中心に複数クライアントの採用成功を支援している
よくある質問(FAQ)
Q: 歯科衛生士は不足しているのですか?
新しく資格を取る人が足りないわけではありません。国家試験の合格者は毎年7,000人以上(2026年は7,452人)で、養成校も全国に35校あります。問題は、免許登録者31万4,143人に対し就業者が14万5,183人(就業割合46.2%)と、半分以上が働いていない潜在化です。採用難の根は供給不足ではなく、資格保有者が現場に戻らないことにあります。
Q: 潜在歯科衛生士はどのくらいいますか?
2022年時点で、免許登録者31万4,143人に対し就業者14万5,183人なので、約16万9,000人が資格を持ちながら就業していません。2024年12月時点の集計でも差は約17万2,000人と、潜在層は縮まっていません。条件と働き方が合えば戻る可能性のある、大きな母集団です。
Q: 歯科衛生士はどこで働いている人が多いですか?
歯科診療所です。就業先の90.6%(13万5,499人)が診療所で、病院は5.1%にとどまります。しかも歯科医師1人だけの診療所が74.8%を占め、1施設あたりの歯科衛生士は平均2.0人と、少人数の職場が大多数です。
Q: 歯科衛生士が転職する理由の上位は何ですか?
「替えたいと考えた理由」(複数回答)では、給与・待遇の面が46.5%で最多、次いで仕事内容34.4%、勤務形態・勤務時間30.9%、経営者との人間関係22.8%です。一方、実際に辞めた「主な理由」では出産・育児14.7%、経営者との人間関係13.1%、結婚11.5%が上位で、ライフイベントと人間関係が引き金になっています。
Q: なぜ院長との人間関係が離職理由の上位に来るのですか?
歯科医院が少人数の職場だからです。歯科医師1人だけの診療所が74.8%を占め、歯科衛生士は平均2.0人。部署異動で人間関係をリセットできず、院長との相性が合わないと逃げ場がありません。院長のコミュニケーションと労務管理が、そのまま定着を左右します。
Q: 歯科衛生士に男性は少ないのですか?
はい。2022年時点で就業歯科衛生士14万5,183人のうち男性は171人で、女性が99%以上を占めます。医療専門職のなかでも際立って女性比率が高く、結婚・出産・育児・介護といったライフイベントが、そのまま離職と潜在化の要因になります。
Q: 歯科衛生士は転職を繰り返しやすいのですか?
転職経験のある人が80.8%と、大多数がキャリアのどこかで勤務先を変えています。雇用形態も常勤58.0%・非常勤37.4%と非常勤の比率が高く、ライフステージに合わせて働き方を調整する動きが頻繁です。採用市場で動いているのは、新卒だけでなく経験者が中心です。
Q: 復職を目指す潜在層を採用するには、何を伝えればよいですか?
ブランクへの不安と、勤務形態への希望に応えることです。ブランク者の受け入れ実績、週2〜3日などの柔軟な勤務、最新機器・手技の再教育の有無を具体的に示すと、戻る後押しになります。潜在層は約17万人規模で、新卒の奪い合いとは別の母集団として狙う価値があります。