薬剤師の総数は32万9,045人で、過去最多を更新し続けています。それでも「薬剤師が採れない」という声が絶えないのは、就業先が薬局に約6割偏り、病院や地方では慢性的に足りないからです。増える総数と、埋まらない現場——この二つを同時に説明できるのが、薬剤師がどの就業先で、どんな理由で動くかという転職市場の構造です。
本記事では、厚生労働省・文部科学省の公的統計をもとに、薬剤師の人数と就業先の分布、病院と薬局の違い、転職・離職の理由、情報の集め方までを整理します。医療の採用を外部に委託する方法を先に比較したい場合は、【許可番号つき】医療・介護の採用代行(RPO)11社比較|職種別の選び方【2026年版】をご覧ください。本記事は、その前提として薬剤師がなぜ転職するのかを、データで確認するものです。
💡この記事の要点(TL;DR)
- 総数は増えているが、新卒の供給は減り始めた: 届出薬剤師は32万9,045人(2024年)で、2020年の32万1,982人から増え続けています。一方、薬剤師国家試験の受験者は第108回の1万3,915人から第111回の1万2,774人へと減少しています。増えているのは中堅以降で、最も人数が多いのは30〜39歳です。
- 就業先は薬局に偏り、病院と薬局で条件が違う: 就業先は薬局が19万7,437人と最も多く、病院は5万7,595人です。20代の年収中央値は病院常勤380万円に対し薬局常勤430万円で、平均年齢も病院42.5歳・薬局46.8歳と差があります。
- 転職の起点は給与・やりがい・勤務条件: 病院就職を避ける理由の最上位は給与水準で、次いで業務内容・やりがい、夜勤の有無や条件です。就職前に昇給ペースや業務内容を知らなかった薬剤師ほど、就職後に転職を考える割合が高くなります。
薬剤師は増えている。ただし新卒入社は減り始めた
薬剤師の総数は増え続けています。ただし、毎年新しく資格を取る新卒の供給は減り始めています。 厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計」によると、届出薬剤師の総数は2024年で32万9,045人で、2020年の32万1,982人、2022年の32万3,690人から増え続けています。この統計は、薬剤師法第9条にもとづいて届け出た薬剤師を全数集計する行政記録で、抽出調査ではありません。総数が増えているところまでは、多くの人が想像するとおりです。
しかし、新しく薬剤師になる人たちの動向を見ると、状況が変わります。厚生労働省の薬剤師国家試験の結果では、受験者数は第108回(2023年)の1万3,915人から、第109回1万3,585人、第110回1万3,310人、第111回(2026年)1万2,774人へと減り続けています。新卒合格率は84〜86%台で高止まりしていますが、受験者そのものが減っているため、毎年就業する新卒薬剤師の数は頭打ちに向かっています。
供給の質にも変化があります。文部科学省の資料では、私立大学薬学部で入学定員の充足率が80%以下の大学が約3割に達し、標準修業年限(6年)内での国家試験合格率は大学によって約18%から85%まで開いています。薬学部を出れば全員が同じように国家試験に受かるわけではなく、大学間の差が大きくなっているということです。
採用の現場で「以前より薬剤師が採りにくい」と感じられるのは、感覚の問題ではありません。総数は増えていても、新卒の供給が頭打ちになり、就業先による奪い合いが起きているという状況です。
薬剤師はどこで働いているか
薬剤師の就業先は薬局に大きく偏っています。最も多いのは薬局で、病院はその3分の1以下です。 2024年の就業先の内訳は次のとおりです。
就業先 | 人数 | 概況 |
薬局 | 197,437人 | 全体の約6割。調剤薬局が中心 |
医療施設(病院) | 57,595人 | 病院の薬剤部門 |
医療施設(診療所) | 5,695人 | クリニック等 |
医薬品関係企業 | 34,184人 | 製薬・卸など |
店舗販売業 | 5,090人 | ドラッグストア関連の一部 |
出典: 厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計」2024年 表15。届出薬剤師 計32万9,045人。
薬局が約6割を占め、病院で働く薬剤師は5万7,595人にとどまります。看護師が病院に65.7%集中しているのとは対照的で、薬剤師は薬局が主戦場です。この偏りが、後で述べる「病院薬剤師の不足」と「薬局・ドラッグストアとの採用競争」を生みます。
年齢の分布を見ると、薬剤師で最も人数が多いのは30〜39歳で8万3,436人(全体の25.4%)、次いで40〜49歳が7万4,118人(22.5%)です。平均年齢は46.9歳、女性が20万3,979人で全体の62.0%を占めます。看護師(平均42.1歳)と比べるとやや高く、女性比率は看護師の91.3%より低いのが特徴です。
病院と薬局では、年齢も年収も違う
同じ薬剤師でも、病院と薬局では働く人の年齢層も年収も違います。この差が、就職先の選択と、その後の転職を左右します。 厚生労働省の薬剤師本人調査から、就業先ごとの平均年齢と年収を整理すると、次のようになります。
観点 | 病院 | 薬局 |
平均年齢 | 42.5歳 | 46.8歳 |
20代の年収中央値 | 380万円 | 430万円 |
30代の年収中央値 | 500万円 | 530万円 |
65歳までの累積年収中央値 | 2億3,280万円 | 2億2,768万円 |
出典: 厚生労働省「薬剤師確保のための調査・検討事業」薬剤師本人調査(n=11,699)。年収は中央値。
病院薬剤師の平均年齢は42.5歳で、薬局(46.8歳)より若い集団です。一方、20代の年収は病院380万円に対して薬局430万円と、薬局のほうが高くなります。若いうちの手取りだけを見ると薬局に分がありますが、65歳までの累積で見ると差は縮まり、病院2億3,280万円・薬局2億2,768万円とほぼ並びます。
このズレが、就職先の選択に影響します。厚生労働省の調査では、病院が就職前に重視される事項の上位は「業務内容・やりがい」「給与水準」、薬局では「給与水準」「通勤時間の長さ」「勤務時間の長さ」と整理されています。若い薬剤師は短期的には給与が高い薬局に魅力を感じる部分もあるのではと推察されます。
薬剤師が転職・離職する理由
薬剤師が動く理由は、給与だけではありません。業務内容・やりがい、勤務条件(夜勤・当直の有無)が並び、さらに「就職前に実態を知らなかった」というギャップが転職を後押しします。 厚生労働省の委託調査では、薬学生が卒業後すぐに病院就職を希望しない理由として、給与水準が最も多く、次いで業務内容・やりがい、夜勤の有無やその条件が挙がっています。
注目すべきは、情報の非対称です。同じ調査で、就職前に「昇給ペース」や「業務内容」を知らなかった薬剤師ほど、就職後に転職を考える割合が高いという傾向が示されています。つまり、辞める・辞めないは入職後の待遇そのものだけでなく、入職前に何をどこまで知っていたかで変わります。求人票に書かれた条件と、実際に働いてみた現実の差が大きいほど、転職の引き金になります。
就業先による違いもあります。病院薬剤師は薬局より若く、キャリアの初期に「思っていた仕事と違う」「昇給が遅い」と感じて薬局・ドラッグストアへ移る動きがあります。逆に、薬局で調剤中心の業務を続けるうちに、病棟業務やチーム医療に関わりたいと考えて病院を目指す薬剤師もいます。給与・やりがい・勤務条件のどれを重く見るかは、年代と就業先で変わります。
薬剤師はどこに転職するのか
薬剤師の転職先は、病院・薬局・ドラッグストア・企業のあいだで相互に転職しています。病院を選ぶ層には、規模の大きい基幹病院を志向する傾向があります。 ただし、病院から薬局へ、薬局から病院へといった全国規模の転職フローを直接示す公的統計は、現時点では整備されていません。ここでは、確認できている範囲の傾向にとどめて述べます。
病院を志望する薬剤師については、就業先の規模の偏りがはっきり出ています。厚生労働省の委託調査で、病院への内定者332人の内訳を見ると、高度急性期の病院が92人(28%)、急性期が168人(51%)で、あわせて約8割が急性期以上の基幹病院でした。病院薬剤師を志す層は、症例の多い大規模病院を選びやすく、中小規模の病院やケアミックス型の病院は、この志向のなかで採用しにくくなります。
薬局・ドラッグストア側は、新卒・若手の確保で病院と競合します。給与水準が相対的に高く、店舗数も多いため、母集団の入口では有利です。ただし、調剤中心の業務にやりがいの物足りなさを感じた薬剤師が、数年後に病院や在宅・かかりつけ薬局へ移る動きもあります。採用する側から見ると、どの就業先も「一度採用して終わり」ではなく、給与・やりがい・勤務条件のバランスが崩れた時点で、薬剤師は他の選択肢が頭の中に浮かんでいる、という前提で社内を設計する必要があります。
地域による違い
薬剤師の数は地域で大きく変わります。人口あたりの薬剤師が多い地域と少ない地域では、1.7倍近い開きがあります。 厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計」(2024年)によると、薬局・医療施設に従事する薬剤師の人口10万人あたりの人数は、全国で210.6人でした。
最も多いのは徳島県の256.6人で、兵庫県245.6人、東京都240.3人が続きます。最も少ないのは沖縄県の155.3人で、福井県170.4人、青森県175.5人が続きます。上位と下位で1.65倍の差があり、人口が多い都市部でも、人口あたりで見ると必ずしも薬剤師が潤沢なわけではありません。
さらに、病院薬剤師に限ると地域差はもっと大きくなります。厚生労働省の「病院薬剤師偏在指標」では、大阪府1.06・兵庫県1.10に対し、奈良県0.90・和歌山県0.85・島根県0.86・愛媛県0.86など、指標が1を下回る(相対的に不足している)県が複数あります。総数の多い都市部でも病院薬剤師は足りず、地方ではさらに厳しい、という二重の地域差があります。自院・自店のある地域の相場を踏まえずに全国一律の条件で募集すると、応募が集まりません。
薬剤師は、いつ・どう就職先を決めるか
薬剤師の採用は、情報を出す「時期」が勝負です。薬学生の多くは、6年生の求人シーズンを待たず、5年生の段階で就業する業界や就職先を決めています。 厚生労働省の委託調査によると、多くの病院は6年生に向けて求人情報を出しているものの、薬学生は5年生の段階で就業業界・就職先を決めているケースが多く、5年生への情報発信が必要だと整理されています。
これは、看護師の採用とは異なる薬剤師固有の事情です。6年制の薬学部では、5年次に長期の実務実習(病院・薬局での実習)があり、その体験が就職先の選択に強く影響します。実習で病院薬剤師の仕事に触れて志望する学生もいれば、逆に薬局・ドラッグストアの条件面に魅力を感じる学生もいます。6年次の4〜6月に求人を出しても、その時点ではすでに志望先が固まっている——採用側が見落としがちな時間差です。
中途採用でも、情報接触の設計は同じく重要です。薬剤師は求人媒体・人材紹介・口コミで情報を集めますが、どの媒体をどの層が使うかの全国的な利用率までは公的統計で確認できていません。確実に言えるのは、給与・昇給ペース・業務内容・夜勤や当直の有無といった、入職前に知りたい情報を、求人の段階で具体的に出しておくことが、応募後のミスマッチと早期離職を減らすということです。
採用担当者は、この実態をどう採用・訴求に活かすか
薬剤師を一律に扱うより、就業先(病院・薬局・ドラッグストア)と年代ごとに、見せる情報と訴える内容を変えるほうが成果につながります。 ここまでのデータをもとに、代表的な層に分けると、優先して伝えるべき情報が変わります。
層 | 主な関心 | 優先して伝える情報 |
就職先を検討中の薬学生(5〜6年生) | 給与、やりがい、夜勤・当直、実習での体験 | 5年生段階での情報発信、実習の受け入れ、初任給と昇給の見通し |
病院で経験を積み始めた若手(20代〜30代前半) | 昇給ペース、業務のやりがい、当直の負担 | 昇給モデル、病棟・チーム医療の関わり、当直回数の実態 |
薬局・ドラッグストアの中堅(30代〜40代) | 年収の頭打ち、キャリアの幅、勤務地 | 管理薬剤師・在宅・専門領域へのキャリアパス、転勤の有無 |
ライフイベント期の薬剤師 | 勤務時間、通勤、育児との両立 | 短時間勤務、店舗・部署の選択、復職支援 |
薬剤師が就職前に「昇給ペース」「業務内容」を知らないほど、就職後に転職を考えやすくなります。求人票に条件を並べるだけでなく、その条件が実際にどう運用されているか(昇給が何年でどう上がるか、当直がどのくらいの頻度か、希望の勤務地に配属されるか)まで伝えることが、応募後の辞退や早期離職を減らします。
こうした採用実務を自院・自店だけで回すのが難しい場合、採用業務を外部に委託する採用代行(RPO)という方法があります。全体像は【2026年版】RPO(採用代行)とは?費用相場・メリット・選び方をご参考ください。薬剤師の採用を得意とする採用代行(RPO)会社を探す場合は、薬剤師の採用代行(RPO)7社比較|病院・調剤薬局・ドラッグストア別の選び方【2026年版】をご参考ください。
また、最近では、時代の変化とともに、生成AIを用いた採用代行という業態も出てきています。そのような考え方は、AI RPO(AI採用代行)とはで解説しています。
まとめ
薬剤師の転職を理解するうえで、まず押さえるべきは就業先の偏りです。薬剤師の総数は32万9,045人(2024年)と増え続けていますが、就業先は薬局に約6割が偏り、病院で働くのは5万7,595人にとどまります。国家試験の受験者は減り始め、新卒の供給は頭打ちに向かっています。
転職の起点は、給与・業務内容やりがい・勤務条件の3つに、「就職前に実態を知らなかった」という情報のギャップが加わります。病院と薬局では年齢層も年収カーブも違い、若手は目先の給与とやりがいのあいだで動きます。薬学生は5年生の段階で就職先を決めており、情報を出す時期そのものが採用の成否を分けます。
採用の側でできることは、就業先・年代ごとに見せる情報を変え、昇給・当直・勤務地といった条件の運用実態まで正確に、かつ早い時期に伝えることです。薬剤師がなぜ、どこへ動くのかを踏まえて採用を設計することが、応募の入口から入職後の定着までを通じて、薬剤師採用の成果を左右します。
著者について
宮前 貴史(株式会社プロリク )
大学卒業後、個人事業主として約5年半にわたり、BtoC・BtoB領域で営業から企画・運営までを一気通貫で経験。その後、ベンチャー企業にて採用担当として制度設計に従事し、さらにRPOサービスの立ち上げ責任者として、スカウト業務の仕組み化から実践までを牽引。プロリク参画後は、その豊富な実務経験を活かし、ITエンジニアのスカウト業務を中心に複数クライアントの採用成功を支援している
よくある質問(FAQ)
Q: 薬剤師の人数は増えていますか、減っていますか?
増えています。届出薬剤師は2024年で32万9,045人で、2020年の32万1,982人から増え続けています。ただし薬剤師国家試験の受験者は第108回の1万3,915人から第111回の1万2,774人へ減っており、新卒の供給は頭打ちに向かっています。増えているのは中堅以降で、最も人数が多いのは30〜39歳(8万3,436人)です。
Q: 薬剤師はどこで働いている人が多いですか?
薬局です。2024年の就業先は薬局が19万7,437人(約6割)で最も多く、病院は5万7,595人、診療所は5,695人、医薬品関係企業は3万4,184人です。看護師が病院に集中しているのに対し、薬剤師は薬局が主戦場という違いがあります。
Q: 病院と薬局では、薬剤師の年収はどちらが高いですか?
若いうちは薬局のほうが高い傾向です。20代の年収中央値は病院常勤380万円に対し薬局常勤430万円です。ただし65歳までの累積では病院2億3,280万円・薬局2億2,768万円とほぼ並びます。平均年齢は病院42.5歳・薬局46.8歳で、病院のほうが若い集団です。
Q: 薬剤師が転職する理由の上位は何ですか?
給与水準が最も多く、次いで業務内容・やりがい、夜勤の有無やその条件です。加えて、就職前に「昇給ペース」や「業務内容」を知らなかった薬剤師ほど、就職後に転職を考える割合が高くなります。入職前に実態を知っていたかどうかが、転職の起こりやすさを左右します。
Q: 薬剤師の採用は、いつ情報を出せばよいですか?
薬学生の採用では、6年生の求人シーズンより前が重要です。薬学生は5年次の実務実習を経て、5年生の段階で就業業界・就職先を決めているケースが多いためです。6年次の4〜6月に求人を出しても、その時点ではすでに志望先が固まっていることが多く、5年生への情報発信が有効です。
Q: 病院薬剤師が採りにくいのはなぜですか?
薬剤師全体は薬局に偏り、病院で働くのは5万7,595人にとどまるうえ、病院薬剤師の偏在指標が1を下回る県が複数あるためです。病院を志望する薬剤師は高度急性期・急性期の基幹病院を選びやすく(内定者の約8割)、中小規模の病院ほど、この志向のなかで採用しにくくなります。
Q: 薬剤師の数は地域で違いますか?
大きく違います。薬局・医療施設従事薬剤師の人口10万人あたりの人数は、全国210.6人に対し、最多の徳島県256.6人と最少の沖縄県155.3人で1.65倍の差があります。病院薬剤師に限ると偏在指標が1を下回る県が複数あり、地域差はさらに広がります。
Q: 女性薬剤師の割合はどのくらいですか?
2024年時点で女性が20万3,979人、全体の62.0%を占めます。男性は12万5,066人(38.0%)です。看護師の女性比率91.3%より低いものの、薬剤師も女性が多数を占める職種です。育児・介護との両立を支える勤務設計が、定着に影響します。