歯科衛生士が2人の医院で、1人が辞める。残った1人に負担が集中し、その人もいずれ辞める——歯科医院の欠員は、こうして連鎖します。しかも辞めた歯科衛生士の多くは、資格を持ったまま現場に戻ってきません。令和4年時点で、免許登録者31万4,143人に対し就業者は14万5,183人。半分以上が資格を持ちながら働いていません。定着への取り組みは、採り直しのコストを抑える以上に、この「戻らない層」をこれ以上増やさないための取り組みでもあります。
採用そのものを外部に委託する選択肢は【許可番号つき】医療・介護の採用代行(RPO)11社比較|職種別の選び方【2026年版】で扱っています。本記事では、厚生労働省の一次資料と日本歯科衛生士会の実態調査をもとに、歯科衛生士の離職がなぜ起きるのか、そして定着率を上げるために何から手を打てばよいのかを、歯科医院の雇用側の視点で整理します。
💡この記事の要点(TL;DR)
- 歯科衛生士の定着率とは: 採用した歯科衛生士がどれだけ辞めずに在籍し続けるかの割合。裏返しが離職率です。歯科衛生士だけを取り出した離職率・復職率の全国値は公表されていませんが、平均勤続年数は6.1年(厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」)で、全職種の一般労働者12.4年の半分です。
- 辞める理由は、健康・家庭・人間関係・勤務条件が横並び: 離職した非就業者の退職理由(複数回答)は、自分の健康21.6%、家庭の事情21.1%、経営者との人間関係20.5%、勤務形態・勤務時間20.5%、給与・待遇19.6%が僅差で並びます。特定の1つではなく、複数の不満が重なって離職に至ります。
- 少人数の職場のため、院長の接し方が定着を左右する: 歯科医師1人だけの診療所が74.8%、1施設あたりの歯科衛生士は平均2.0人。就業者の78.6%が待遇改善を望み、離職者が前職に求めた改善は職場の人間関係33.1%・待遇改善32.7%・休暇の取得26.6%が上位です。
歯科衛生士の定着率・離職率は、どこまで分かっているか
歯科衛生士だけを取り出した離職率と復職率には、全国を横断する公表値がありません。一方、平均勤続年数には確定値があります。6.1年です。 看護師には日本看護協会が毎年公表する離職率がありますが、歯科衛生士には同等の全国調査がなく、復職率を同じ定義で測った統計もありません。ただし勤続年数は、厚生労働省の賃金構造基本統計調査が職種別に毎年公表しています。
令和6年賃金構造基本統計調査 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 所定内給与額 |
歯科衛生士(男女計) | 35.9歳 | 6.1年 | 28万6,600円 |
全職種(男女計) | 44.1歳 | 12.4年 | 33万400円 |
全職種(女性) | 42.7歳 | 10.0年 | 27万5,300円 |
出典: 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」職種別第1表・産業別第1表(一般労働者・企業規模10人以上・産業計。歯科衛生士の集計労働者数5万3,980人)。歯科衛生士は全職種より平均年齢が8歳若く、勤続年数の差にはその分が含まれます。
給与は全職種の女性平均を上回り、勤続年数は下回ります。給与水準そのものより、働き続けられるかどうかに課題があることを示す数字です。
追加で、日本歯科衛生士会の2つの調査を見ていきます。1つは、歯科衛生士が転職を繰り返しやすい職種だということ。就業者のうち転職経験のある人が80.8%にのぼります。もう1つは、辞めた人の多くが現場に戻らないこと。令和4年時点で免許登録者31万4,143人に対し就業者は14万5,183人で、約16万9,000人が資格を持ちながら就業していません(就業割合46.2%)。就業者数はその後増え、令和6年末は14万9,579人です。
つまり、歯科衛生士の定着は「離職率が何%か」よりも、「なぜ辞め、なぜ戻らないのか」という中身を踏まえて対策するほうが、実態に合います。
なぜ歯科衛生士は離職・潜在化するのか
歯科衛生士が辞める理由は、特定の1つではありません。健康・家庭・人間関係・勤務条件・待遇が、僅差で横並びに重なります。 日本歯科衛生士会の調査で、離職した非就業者459人が挙げた「最後に勤務していた職場を退職した理由」(複数回答)は、次のとおりでした。
退職した理由(非就業者・複数回答) | 割合 |
自分の健康 | 21.6% |
家庭の事情 | 21.1% |
経営者との人間関係 | 20.5% |
勤務形態・勤務時間 | 20.5% |
給与・待遇の面 | 19.6% |
歯科以外への興味 | 19.6% |
出産・育児 | 16.6% |
仕事内容 | 13.9% |
長時間勤務・過重労働 | 13.1% |
出典: 日本歯科衛生士会「第10回歯科衛生士の勤務実態調査報告書」2024年(非就業者 n=459)。
上位が20%前後で、差が小さいまま並んでいるのが特徴です。看護師や薬剤師のように「給与が突出した理由」という形ではなく、健康・家庭・人間関係・勤務条件が同じくらい影響しています。どれか1つを改善しても離職は止まりにくく、複数の要因に同時に対応する必要があります。
見逃せないのが「歯科以外への興味」19.6%です。歯科衛生士の資格・経験を持ったまま、歯科以外の仕事へ移る人が一定数います。待遇や環境が合わなければ、業界の外へ出ていきます。潜在化を防ぐには、歯科の中で働き続けたいと思える条件が必要です。
少人数の職場が、定着を難しくしている
歯科衛生士の職場は小さく、1人が辞めたときの影響が大きく、院長との相性がそのまま定着を左右します。 就業する歯科衛生士の90.6%は歯科診療所に勤め、そのうち歯科医師1人だけの診療所が74.8%(4万6,261施設)を占めます。1施設あたりの歯科衛生士は平均2.0人にとどまります。
この構造が、2つの弱点を生みます。1つは、欠員に弱いこと。2人のうち1人が抜けると業務が回らなくなり、残る1人の負担が急増して、次の離職を招きます。もう1つは、人間関係が合わないときに院内で移る先がないこと。大きな病院のように部署を異動して環境を変えることも、上司を選び直すこともできません。院長の接し方や労務管理が合わなければ、辞める以外の選択肢がなくなります。離職理由に「経営者との人間関係」が繰り返し上位に来るのは、職場が小さいからです。
歯科衛生士の需要そのものは今後も増えます。厚生労働省の推計では、2035年に必要な就業歯科衛生士は18万7,606人で、令和6年末(2024年末)の就業者14万9,579人との差は約3万8,000人です。応募者の数が限られるなか、辞めた1人を採り直す費用と手間は大きく、少人数の医院ほど、辞めずに働き続けてもらう仕組みが重要になります。
現職者・離職者が求めている改善
歯科衛生士が職場に求めているのは、待遇の改善に加えて、人間関係・休暇・専門性の評価です。 日本歯科衛生士会の2024年調査では、就業者の78.6%が待遇改善を希望しています。さらに、いったん離職した非就業者が「最後に勤務していた職場で改善してほしかったこと」の上位は、次のとおりでした。
前職に求めた改善(非就業者) | 割合 |
院長等、職場の人間関係 | 33.1% |
待遇改善 | 32.7% |
休暇の取得 | 26.6% |
専門性・資格等の評価 | 22.7% |
福利厚生の充実 | 22.2% |
多様な勤務形態・勤務時間の導入 | 20.0% |
業務量の軽減 | 19.0% |
労働時間の短縮 | 16.6% |
出典: 日本歯科衛生士会「第10回歯科衛生士の勤務実態調査報告書」2024年(非就業者 n=459)。
最上位が「院長等、職場の人間関係」33.1%で、待遇改善32.7%とほぼ並びます。給与を上げるだけでは足りず、人間関係と休みの取りやすさ、そして専門性を評価される実感が、そろって求められています。「専門性・資格等の評価」22.7%は、歯科衛生士が単なる補助者ではなく専門職として扱われたいという意思の表れで、認定・専門資格の評価や役割の明確化が定着につながることを示しています。
歯科衛生士の定着率を上げる方法(優先順位つき)
定着率を上げるには、採用を強化する前に、離職を生んでいる運用と人間関係を見直すほうが先です。 具体的にやることには短期・中期・長期があり、少人数の職場では、まず院長の接し方と休暇・待遇から着手すると効果が早く出ます。
短期(最初の6〜12か月で着手する)
- 院長の接し方と労務管理を見直す:離職理由・改善要望のどちらでも上位に来るのが院長との人間関係です。定期的な面談、指示の一貫性、感情的な叱責をなくすといった基本の徹底が、少人数の職場では最も効果があります。
- 休暇を取れる体制にする:改善要望の上位に「休暇の取得」26.6%が入ります。2人体制でも休みが回るよう、シフトの組み方や代替の確保をルール化します。休みにくさは、待遇への不満より先に離職を招きます。
- 待遇の点検:就業者の78.6%が待遇改善を望んでいます。同一地域・同規模の相場と比べ、給与・手当が見劣りしていないかを点検します。
中期(1〜3年)
- 専門性・資格を評価する仕組み:認定・専門資格の取得支援と、資格・スキルに応じた処遇。「専門性・資格等の評価」22.7%という要望に応え、補助者ではなく専門職として扱う姿勢を制度で示します。
- 多様な勤務形態を用意する:時短勤務、非常勤、勤務時間の選択。就業者の常勤58.0%・非常勤37.4%という構成のとおり、ライフステージに合わせて働き方を選べることが、女性99%以上の職種では定着に直結します。
- 業務量の軽減:業務の役割分担、器具準備や記録の効率化。1人あたりの負担を下げることが、次の離職を防ぐことにつながります。
長期(3年以降)
- 復職しやすい職場をつくる:資格を持ちながら働いていない潜在層は、令和4年時点で約16万9,000人にのぼります。ブランク者の受け入れ、最新機器・手技の再教育、短日数勤務を整えることは、既存スタッフの復職のしやすさにもつながり、辞めた人がそのまま戻らなくなるのを抑えられます。
うまくいっている医院は、単発の施策ではなく、院長の接し方・休暇・待遇・専門性の評価・柔軟な勤務を組み合わせて実行しています。待遇だけを上げて人間関係や休暇を放置する、あるいは少人数による負担を個人の頑張りで補わせる対応は、効果が出にくい失敗の例です。
募集の段階と定着は、つながっている
定着率を上げる取り組みは、入職後の施策だけでは足りません。誰を、どう採用するかも、その後の定着を左右します。 歯科衛生士の離職理由に人間関係や勤務条件の食い違いが並ぶのは、入職後の問題であると同時に、採用時に「聞いていた職場と違った」というズレが起きていることの表れでもあるからです。
募集の段階でできることは2つあります。
- 実態を正確に伝える:募集や面接の段階で、院長やチームの雰囲気、休みの取りやすさ、任せる業務の範囲、勤務形態の選択肢を具体的に伝え、入職前に認識をそろえる。小さな職場では「誰と働くか」が決め手になるため、条件だけでなく人と働き方を見せることが有効です。
- 応募者の対象を広げる:新卒だけを探すのではなく、資格を持ちながら働いていない潜在層に、復職しやすい条件を示して直接声をかける。約16万9,000人の潜在層は、条件と働き方が合えば戻る可能性があります。
こうした採用実務を自院だけで回すのが難しい場合、採用業務を外部に委託する採用代行(RPO)という方法があります。RPOの全体像は【2026年版】RPO(採用代行)とは?費用相場・メリット・選び方をご参考ください。
また、歯科衛生士の採用が得意な会社の比較をしたい場合は、歯科の採用代行(RPO)比較6社|歯科医師・歯科衛生士・歯科助手別の選び方をご覧ください。
また、最近では生成AIを使って、劇的に効率を高めた採用代行サービスも出てきています。詳しくは、AI RPO(AI採用代行)とはで解説しています。
まとめ
歯科衛生士の定着率は、募集の段階から入職後の運用までを一貫して見直すことで上がります。歯科衛生士には看護師のような全国離職率の公表値はありませんが、平均勤続年数は6.1年で全職種の半分、辞める理由もはっきりしています。健康・家庭・人間関係・勤務条件・待遇が僅差で横並びに重なり、どれか1つの改善では止まりにくいのが特徴です。
歯科衛生士の職場は、歯科医師1人・歯科衛生士2人前後の小さな医院が大多数です。1人が辞めたときの影響が大きく、院長との相性がそのまま定着を左右します。就業者の78.6%が待遇改善を望み、離職者は職場の人間関係・待遇・休暇の改善を求めています。
定着率を上げるには、採用を強化する前に、院長の接し方と休暇・待遇を見直すことです。短期でこの3つに着手し、中期で専門性の評価と柔軟な勤務、長期で潜在層が戻れる職場づくりへと進めてください。辞めた歯科衛生士の多くが現場に戻らない以上、定着は「戻らない層」を増やさないために最も重要な取り組みです。職場の実態を募集の段階でどう伝えるかは医療・クリニックの採用サイトの作り方|応募が増える書き方と載せる項目【2026年版】で解説しています。
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著者について
宮前 貴史(株式会社プロリク )
大学卒業後、個人事業主として約5年半にわたり、BtoC・BtoB領域で営業から企画・運営までを一気通貫で経験。その後、ベンチャー企業にて就労移行支援事業所の支援員として、利用者の一般就労に向けた支援に携わる一方、採用担当として採用制度の設計にも従事。さらに、RPOサービスの立ち上げ責任者として、スカウト業務の仕組み化から実運用までを牽引した。
株式会社プロリク参画後は、福祉現場での支援経験と、営業・採用・RPO領域で培った実務経験を活かし、採用ターゲットの設計、スカウト文面の作成、候補者選定、運用改善など、複数法人の採用活動を支援している。
よくある質問(FAQ)
Q: 歯科衛生士の定着率(離職率)の平均はどのくらいですか?
歯科衛生士だけを取り出した離職率と復職率には、全国を横断する公表値がありません。看護師には日本看護協会の年次調査がありますが、歯科衛生士には同等の全国調査がないためです。近い指標としては平均勤続年数があり、6.1年です(厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」、平均年齢35.9歳)。全職種の一般労働者12.4年、女性10.0年より短く、辞める理由(健康・家庭・人間関係・勤務条件・待遇が横並び)を把握して対策する必要があります。
Q: 歯科衛生士が辞める主な理由は何ですか?
離職した非就業者の退職理由(複数回答)は、自分の健康21.6%、家庭の事情21.1%、経営者との人間関係20.5%、勤務形態・勤務時間20.5%、給与・待遇19.6%が僅差で並びます。特定の1つが突出しているのではなく、複数の不満が重なって離職に至るのが特徴です。
Q: なぜ院長との人間関係が定着に強く影響するのですか?
歯科医院が少人数の職場だからです。歯科医師1人だけの診療所が74.8%を占め、歯科衛生士は平均2.0人。部署異動で環境を変えることも、上司を選び直すこともできません。院長の接し方や労務管理が合わなければ辞める以外の選択肢がなく、離職理由でも改善要望でも人間関係が上位に来ます。
Q: 歯科衛生士の離職を防ぐには、何から始めればよいですか?
少人数の職場では、院長の接し方と労務管理の見直し、休暇を取れる体制づくり、待遇の点検から始めるのが効果的です。離職者が前職に求めた改善は、職場の人間関係33.1%、待遇改善32.7%、休暇の取得26.6%が上位で、この3つは短期で着手できます。
Q: 給与を上げれば、歯科衛生士の定着率は上がりますか?
待遇は重要ですが、賃上げだけでは足りません。離職理由も改善要望も、給与・待遇と人間関係・休暇・勤務条件が横並びだからです。就業者の78.6%が待遇改善を望む一方、離職者が最も求めた改善は「職場の人間関係」33.1%でした。待遇と環境の両方に対応する必要があります。
Q: 歯科衛生士が「歯科以外へ興味」で辞めるのを防ぐには?
離職した非就業者の19.6%が「歯科以外への興味」を退職理由に挙げています。歯科の中で働き続けたいと思える条件——専門性・資格の評価、キャリアの見通し、柔軟な勤務——を用意すると、業界の外へ移るのを抑えられます。専門職として扱う姿勢を制度で示すことが有効です。
Q: 潜在歯科衛生士の復職を、定着策として使えますか?
使えます。資格を持ちながら働いていない潜在層は、令和4年時点で約16万9,000人にのぼります。ブランク者の受け入れ、最新機器・手技の再教育、短日数勤務を整えると、復職を後押しできます。同じ体制は既存スタッフの働きやすさにもつながり、辞めた人がそのまま戻らなくなるのを抑えられます。
Q: 定着率を上げると、採用コストの削減につながりますか?
つながります。早期離職が減れば、採り直しにかかる募集費・人材紹介手数料・教育コストを抑えられます。歯科衛生士は応募者の数が限られ採用が難しいため、定着率の改善は採用予算の効率化に直結します。少人数の医院ほど、1人が辞めたときの影響が業務と採用の両方に大きく出ます。